といち

さて、このツアーでもう一つびっくりすることがあった。

私の子ども時代、奈良漬けと聞くとすぐ頭の中で「トイチノナラヅケ」とひびくぐらい、奈良漬け=トイチノナラヅケだった。ラジオやテレビでよく宣伝していたしスーパーに行けば、売っているのはこれだったし、利用していたサンデン山陽電車)のベンチに黄色の広告板が貼ってあった。少し大きくなってトイチ=十一と知り、そのうち、十一とは十日で一割という金利(利息)を取ること、そしてそういった金利を取る金融業者を意味することを知った。

そのうち、甲南漬けという名前の奈良漬けもあることを知り、各地に奈良漬けはあって様々な名前で売られていることを知った。

10年ほど前に京都大学の精神科の医者で十一という名前の人が一躍有名になったことがある。奈良の医師放火殺人で長男の供述調書などを引用した単行本が出版された秘密漏示事件で、鑑定医の知人であるという理由から関与を疑われ、しかもテレビで名前や顔写真まで報道され、しかし一切関与はなかったことがその後すぐ判明したのだが、ちょうどその新聞で報道された頃にこの十一元美(トイチモトミ)氏の講演を聴いたことがある。日本では数少ない児童精神科医で、広汎性発達障害にくわしい人として名を知られ、今も活躍されているが、講演は大変素晴らしかった。現場に役に立ちたいという姿勢がはっきりしていて、話は具体的で誠実な人柄が伝わり、大変好感を持った。

で、私は「変わった姓やし、あの十一の奈良漬け屋さんそのものではなくてもその一族の人に違いない。そうかぁ、奈良漬け屋さんの家に生まれ、跡を継がず、お医者さんになりはったんかぁ」と勝手に思っていた。

で、このツアーで「次は黒田食品に行きます。十一の奈良漬けで有名なところですわ。ここでは買い物もできます」というのを聞いて我が耳を疑った。えっ、黒田食品?十一の奈良漬けは昔ほどには宣伝を聞かないし、倒産して吸収されたというわけか!?と思いながら向かった。

そして店(工場の横でアンテナショップ的に小売りもしている)で工場長さんの説明を聞き、何か質問はと言われ、手を挙げて聞いた。「黒田食品なのになんで十一の名前で売っているんですか。私は十一という名前の会社だと思っていました。奈良漬けというとトイチというぐらいに馴染んで育ちました。」というと、こんな答えが返ってきた。「私どもはもともと徳島の漬け物やでして、タクワンを扱っていたんです。屋号が十一でそれを名前に使いました。タクワンだけでは扱い量もそれほど広がらず、何かないかと思ったときに、徳島は昔から良質な瓜がたくさん取れるところなんです。それを使った商品ができないかということで奈良漬けをつくったところ当たりましてよう売れたんです」

屋号でしたか。----十一先生は奈良漬け、関係なかったか。。。

長く生きているといろいろ、おもしろいことがあります。