日本の伝統美を訪ねて---金沢の和菓子

友人から借りている本がよい。

「日本の伝統美を訪ねて」芝木好子著 日本交通公社 1973年発行

●金沢の和菓子

森八の取材。
有名な長生殿は前田利家が秀吉に献上したと伝えられる。昔は白色長方形で表面に胡麻がふりかけてあった。後水尾天皇がごらんになって「田の面に落つる雁のよう」と仰せられたので落雁の名が付いたという。三代利常の創意で墨の形にし、小堀遠州が名付けて「長生殿」の三字を篆書体で記す。これが墨形長生殿の始めとされる。

今は紅白の干菓子で紅は凜とした鮮やかさに高貴な女人のおもかげがある。これより一刷毛濃くてはくどくなり、薄くてはぼやける一瞬の決まりの色である。二つの色の取り合わせは美しい雛の一対を見る思いがする。

一個の干菓子「長生殿」を300年守り育てることは一軒の菓子舗の生きた歴史そのものであって代々の人の並々ならぬ思いがこめられ、受け継がれたことである。「伝統のあるお店の屋台は重いでしょうね。」「それはもう、自分のものという気がしません。自分たち一代を大過なく過ごせたらと思います。」

長生殿は餅米の粉と和三盆を蜜でしめらせて手早くまぜて揉み、紅色は本紅(!)をまぜる。一個50円でそのうち本紅が16、17円かかると聞いた。本紅は山形の紅花から作る天然色素で高価なのだった。(現在は250円する)

このあと「千歳」の話になり、あと菓子の木型の話と移る。



「千歳」はどんなお菓子だろうかと森八のHPに行くと、書籍も扱っているようだ。クリックすると「あなた、わたしも闘います」というタイトルで、

1995年、370年の和菓子の老舗「森八」が倒産の嵐に巻き込まれた。
「森八は私物ではない、日本文化の誇りを守れ」の激励の言葉に涙と共に決然と立った夫と妻。激励の言葉の背後にひそむ企業の生命力の本質は?奇跡のように復活した日、振り返ると父母の愛に飢えた子供たちの姿がそこにあった。暖簾を守った闘いの記録。

という内容紹介があった。注文する。


去年、森八を訪ねる機会があり、大樋焼きの美術館の前に建つその店構えはりっぱで新しい建物だが老舗の風格が感じられた。長生殿小墨と呼ばれる小さい方の長生殿をみやげに買った。お茶の世界では一目おかれていて私も知っている干菓子であったが、こんな歴史を背負う銘菓ということまでは知らなかった。あの紅色が本当に山形の紅を使っていることなどこれを読むまで全く知らなかった。


芝木好子の本はこれを含めて15の訪問記である。しばらく借りてここで紹介していきたい。