私たちのラジウム夫人

(とにかく「元素をめぐる美と驚き−周期表に秘められた物語」という本は訳がまずい。美味しくない。それでも我慢してこの中から『私たちのラジウム夫人』を紹介する。おつきあいください。)

キュリー夫人がピッチブレンドとして知られているウラン鉱石から苦労して取り出したラジウムは初めて女性が得たノーベル賞(1911年)の相乗効果で神秘的な魔除けの石としてもてはやされたり、取り合いになって争われたり、地名や商品名ブランドになったりした。ラジウムの奇妙な特徴−青い光を出し、神秘的で目に見えない放射能を持つことがスパイスとして各種の幻想を盛り立てた。マリー・キュリーは「私たちのラジウム夫人」として祝福されたが、この大騒ぎにひどく悩まされ、一方で放射線障害による不調もはじまる。

ラジウムは当初から皮膚を痛めることが知られていたが、癌の治療に奇跡的な効果があることが知られてからは血液や骨や神経の病気の治療にも効くと言い出す人があらわれ瞬く間に無闇に利用され始めた。

万能な魔法の治療法として歓迎された。あらゆる種類の、治療効果が期待される製品にラジウムは添加された。添加されなくてもラジウムという言葉がいろいろな品物に流行の商品名として使われた。「ラジウムバター」「ラジウムタバコ」「ラジウムビール」「ラジウムチョコレート」「ラジウム歯磨き粉」「ラジウムコンドーム」「ラジウム坐薬」「ラジウム避妊ゼリー」etc。

「オーロララジウム肥料」は土壌を温めることを保証して販売された。
卵が自分で温まって孵化することを期待して、鶏の餌にはラジウムが混ぜられた。
赤ちゃんのための「オーレイディウム(おお、ラジウム)毛糸」の宣伝文句「驚くべきパワーの生理化学的治療法、すなわち放射能が含まれています。ラジウムで伝わる細胞の興奮による有機的刺激のすばらしい効果は誰もがご存じでしょう。---このように処理した毛糸によって、織物の標準的な利点と優れた衛生的な価値のどちらも実現できます。ベビー用品一式に、子どもたちの毛糸の衣類に、あなたの下着やセーターに、オーレイディウム毛糸を使いましょう。」

キュリーの名前も治療を保証するために使われた。「キュリーヘアトニック」は髪が再び生えて色が戻ると宣伝された。

少年向け冒険小説にもラジウムが扱われ、魅惑的な物質として闘って遠い国から奪い取ってくるのだ。

一方でラジウムが身体に深刻な影響を与えることが1930年代には明らかになってきた。

ニュージャージー州ラジウム塩を使う発光時計の文字盤を塗る作業をしていた「ラジウムガールズ」。彼女たちは放射性塗料のついた作業用のブラシの先端を細くするために舐めていたのだ。極度の貧血になり顎骨壊死をきたして亡くなった。

(ここからは元素図鑑に掲載された内容)

時計工場の女性達の何人かが会社を訴えたが、この訴訟は危険で劣悪な労働環境がもたらした被害について従業員が会社を訴える権利を確立された最初の例となった。

けれども放射性のグッズに人々が背を向けるまでにはもう一人の別の男性の死が必要だった。

有名なプレイボーイで大富豪のエーベン・バイヤーズが当時健康飲料水として売られていたラジウムとトリウムを相当な量、含む「レイディトーRADITHOR」を毎日3本ずつ飲み続け、ラジウム中毒で死んでしまう。このとき彼の下あごが壊死してはずれたことから『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は「ラジウム水は彼のあごがはずれるほどよく効いた」という見出しで記事を掲載した。

この出来事をきっかけにFDA(米国食品医薬品局)による化粧品・医薬品規制が強化される。


知らないということは何と恐ろしいことでしょうか。。。。。