あの宝物がいまやサプリメントに

一昨日の恩師を偲ぶ会で私のやっていた研究テーマのその後を聞いた。

扱っていた細菌のグルコース脱水素酵素補酵素がそれまで脱水素酵素補酵素というとニコチンアミドとフラビンのいずれかであったのにそれらにあてはまらず第3の補酵素であるということで大量培養を経て結晶化の一歩手前までいったのが私のやったこと。

次の人が引き継いでmgの単位で結晶化に成功し、様々な方法で構造決定にいたる途中で外国のチームに先を越され、Natureという雑誌に発表されたのが1979年、このとき恩師は肩を落とし「出たよ、先を越されたよ---」と言ってしばらく落ち込んでいたという。

私の時代は葉酸の一種ではないかと考えていたのだが、実はPQQ(ピロロキノリンキノン)という物質だった。

その後、生化学薬理学の方でPQQが細菌に対する生育促進効果を始め、抗酸化作用、神経保護作用など、さまざまな生理作用を持つことが見出され、今では何とアンチエイジングサプリメントとして市販されている。

恩師は「第三のビタミンを見つけようとしているんだよ、我々は。」とよく言っていたが本当にその通り(*)になったのだ。

(*)2003年に理化学研究所が半世紀ぶりにPQQを新しいビタミンとして発表したが、2005年にビタミンとははっきり言えないという論文が出て確定はしていない。

田舎の女子大で細々と少人数でやってきた研究が世界の表舞台に立てたかも知れなかったのである。

偲ぶ会では出席者一人一人のその後の人生が語られ、恩師は眼を細めながら聞いていてくれたと思う。

マンモス大学ではない小さな女子大の、だから一人一人の存在感がしっかりある大学生活のありがたさを改めて感じた一日であった。