蚕を食べる

高校の同窓会の神戸支部の集まりがあって参加した。

わが21回は8名の出席。私は久しぶりの出席。女性2名に男性6名。超自意識過剰人間だった私は3年間で異性と話したことは数えるほどしかない。それがどうだ、60歳を2年も超えるとペラペラとしゃべること、しゃべること。気楽に何でも話せた。

出席しようと思ったのは講演がおもしろそうだったのだ。私たちの2年先輩で蚕の研究者、中村照子さんが「人と蚕の新時代−健康素材への期待」と題して、話をした。

まず、皇室御養蚕について−大正3年に建てられた紅葉山御養蚕所で小石丸という種の蚕を妃殿下が飼われているのだが、正倉院御物の絹織物の模造復元が進められる中で古代の絹糸がこの小石丸の作る絹糸に近いことがわかり、正倉院から宮内庁に分けていただけないかという願いがあった。

小石丸のつくる繭はピーナッツ型で糸はくびれの分だけ少なく、経済性重視の昨今、皇居でも中止が検討される中、皇后様の強い願いで継続された。正倉院からの話があった当時は年7kgしか生産されていなかったが、修復には毎年40kg必要ということで皇后様が励まれその必要量が今では満たされ、鎌倉時代の絵巻物「春日権現験記絵」の復元、修復にも使われている。

心温まるこんな話から始まり、シルクの機能性、飼料の桑の機能性(桑に含まれるデオキシノジリマイシンというグルコースに似た成分がグルコースが吸収される際に働くグルコシダーゼと結合してグルコースの吸収を妨げることで糖尿病予防に有効とのこと---グルコースはOの入った六員環だがこの物質はNの入った六員環をつくる!---なんとおもしろい)と進む。

中村さんは五齢の蚕の血液の有用成分を研究されているのだが、その過程で少し血を採っただけで命を奪ってしまう蚕の本体の有効活用はできないかと考える中で、食料にどうだろうと真空乾燥して食べてみた(!)ところ、とても美味しいことに気づき、他機関と連携して安全で肉類に替わるタンパク源として宇宙食も視野に入れ研究が進められているとのこと

NHKの生活ほっとモーニングで取材されたときの動画を見せてくださったのだが真空乾燥した蚕はサヤエンドウスナックにそっくり、恐る恐る口に入れるアナウンサーが「おいしいですねぇ」と声をあげた。

世界の食糧危機を救うのは昆虫と言われているそうだが、この日の話はそれが実感できる、実に興味深い内容だった。そして中村さんは素敵な美人だった。話の構成が巧みだった。

参加の葉書を出したものの当日まで迷っていたけれど行ってみてよかった。元気をもらえた一日だった。