川上弘美さんインタビュー(オピニオン)

9月に出版した小説「神様 2011」について語る。

私はずっと日常のことを書きたいと思って小説を書いてきた。「生きている」ということは日常を過ごすことだから。

自分たちが選挙をしてつくってきた国で、こういうことが起こってしまった。たまらない思い。どこに向けていいかわからない、最終的には自分自身に返ってくる怒りがある。

最初はこの小説を発表するつもりはなかった。あの事故を言語化するやり方として適切かどうか自分でもわからない。あえて出版したのは「原子力は人間の手に余る」ということを自分自身にできるやり方でどうしても訴えたかったからだ。

45億年前、地球ができた当初は今よりずっと多くの放射性物質があった。長い長い年月の間に放射性物質が自然に崩壊し、少しずつ減っていったことで複雑な生命が住める環境がやっと整った。せっかく放射線の少ない環境になったのになぜ今になって残りわずかな「ウラン235」という放射性物質をかき集めて核分裂させさらに自然界に存在しなかったプルトニウムという放射性物質を作り出すのか。

人類もいつかは種としての終えるときがくる。放射性物質の利用は自分たちの手でわざわざ終わりを早める可能性を広げる行為ではないか。

人類って大したものじゃない。技術力は高くて核兵器原発をいっぱいつくったけどそれを制御する力はない。そういう面では絶望的。

でも生物としてみれば「生きているだけですごい」と思う。日常がどんなに変わっても生の本質を味わう自由なのびのびしたひととき、生きているよろこびはある。それを失うことは決してしたくない。そう思っている。