乙御前

「眼の力 夢の美術館」の表紙は光悦の乙御前(おとごぜ)の茶碗の迫力ある写真である。

茶の先輩は光悦が好きで乙御前の写しを持っていて研究会の時に使わせてくださる。去年の6月からこの研究会にまじめに出始めた。そのときにこの写しを見てはじめて乙御前なる言葉も知った。光悦七種というのがあることも知った。

その程度の浅学の身がこの8ヶ月ほどの間にめきめき知識を溜めこんでいっているのは感心と自分をほめておきたい。(!)

乙御前はお多福のことでこの茶碗のふっくらした形姿からの命名であるらしいが先日の淡交会の添釜で使われた萩の水差しも銘は乙御前だった。しもぶくれの愛嬌のある形であった。

昨夜、買って積んでおいた文芸春秋3月号を手にとったところグラビアの『細川家の美』というページに「長次郎作 黒楽茶碗 銘おとごぜ」の写真が出ていた。

細川護熙氏のコメントは「このおとごぜの碗は細川三斎の好みによって長次郎に焼かせたものと伝わる。銘は胴の中ほどがゆるやかに内にすぼまるところから名づけられたのであろう。」とある。

ふっくらしもぶくれの形姿のものにこの乙御前は銘としてよく使われるらしい。ではなぜお多福のことを乙御前というのか検索するがなかなかヒットしない。

辞書には乙御前は「顔の醜い女の称。おたふく。おかめ。」とあるが、これは疑問を感じる。醜いのではない、かわいらしくて愛嬌があると表現してほしい。愛されているからこその銘である。

「眼の力 夢の美術館」によれば、この乙御前の命銘は表千家の江岑宗左によるものらしい。また、この茶碗の昔の持ち主の森川如庵が益田鈍翁に箱書を頼んだ時に、普通なら「光悦 赤 乙御前」とでもするところ、益田鈍翁は「たまらぬものなり」と書いたとのこと。感激してたまらなくいいものだと書かせる茶碗。すごいな。